トスカーナ大公の宮殿であったピッティ宮殿(Palazzo Pitti)の内部には、『大公の聖母』、『小椅子の聖母』などラファエロの名画を多く所蔵するパラティーナ美術館など5つの美術館・博物館があります。
また、宮殿に付属するボーボリ庭園(Giardino di Boboli)は、コジモ1世が整備した広大なルネサンス式庭園です。
ボーボリ庭園は2つの世界遺産「フィレンツェ歴史地区」、「メディチ家の邸宅群と庭園群」へ同時に登録されており、1ヶ所で2つの世界遺産を制覇できてしまいます。
ピッティ宮殿とボーボリ庭園は内部に計6つの美術館・博物館があり、宮殿と庭園でチケットが別なので「チケットがわかりにくい」観光スポットです。
そこで、本記事では、ピッティ宮殿とボーボリ庭園には、どんな美術館・博物館があって、どのチケットで入場できるのか、もわかりやすく解説します。
当面、入場時の検温(37.5℃以上入場不可)、マスク着用義務などの対策が実施されています。また、君主の居住区など、まだ閉鎖されているエリアがあります。
目次
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園 見学のポイント
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園の見学計画をたてる上で、事前に知っておきたいポイントを解説します。
(1)チケットと入場できる美術館・博物館の整理
まず最初にチケットと入場できる美術館・博物館を整理します。
②君主の居住区: Appartamenti Imperiali e Reali
③近代美術館: Galleria d’Arte Moderna
④衣装・ファッション博物館: Museo della Moda e del Costume
⑤大公の宝物庫(旧銀器博物館): Tesoro dei Granduchi
※離れた場所にあるバルディーニ庭園も入場可
(2)ピッティ宮殿の見どころハイライト
ピッティ宮殿は、メディチ家以降、トスカーナ大公の住まいとなった宮殿です。トスカーナ大公国は、フィレンツェを支配したメディチ家が領土を拡大して成立した国で、ほぼ現在のトスカーナ州にあたります。
1457年に銀行家ルカ・ピッティがメディチ家に対抗して宮殿を建て始めたのが、ピッティ宮殿の始まりです。
ルカ・ピッティの死去により宮殿建設は中止されましたが、初代トスカーナ大公となったメディチ家のコジモ1世が妻エレオノーラのために宮殿を購入し、完成させました。
公的な政庁であった現ウフィッツィ美術館に対し、ピッティ宮殿はメディチ家の私的な宮殿として整備されました。
1737年、メディチ家出身の世継ぎが途切れ、ハプスブルク=ロートリンゲン家(ロレーヌ家)が大公の座を継ぎました。
ナポレオン戦争後、サルディーニャ王国にトスカーナ大公国が併合されると、ピッティ宮殿の主はサヴォイア家となりました。
イタリアを旅行するとあちこちで名前を聞くサヴォイア家のヴィットーリオ・エマヌエーレ2世も一時、ピッティ宮殿を住まいとしました。
フィレンツェ激動の歴史を見続けてきたピッティ宮殿ですが、ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世(2世の孫)が宮殿を国家に移譲し、現在は上で紹介した5つの美術館・博物館として利用されています。
中でも人気なのが、ルネサンスの巨匠ラファエロの絵画を大量に所蔵するパラティーナ美術館(Galleria Palatina)です。
パラティーナ美術館の必見絵画をいくつか紹介します。
① ラファエロ・サンティ『大公の聖母』:Room Sala di Saturno(28)
ルネサンスの巨匠ラファエロの絵画を多く展示するパラティーナ美術館ですが、特に有名な作品はトスカーナ大公フェルディナンド3世が所有していた『大公の聖母』です。劣化を隠すため、背景が黒く塗りつぶされてしまいました。
② ラファエロ・サンティ『小椅子の聖母』:Room Sala di Saturno(28)
キャリア後期に描いた聖母子像です。可愛らしく描かれた聖母マリアが人気です。
③ ピーテル・パウル・ルーベンス『4人の哲学者』:Room Sala di Marte(30)
ルネサンス期以外の絵画も所蔵されています。中でもフランドル・バロックを代表するルーベンスの作品が人気です。
④ ティツィアーノ『悔悛するマグダラのマリア』:Room Apollo Room(31)
盛期ルネサンス・ヴェネツィア派を代表する画家ティツィアーノの傑作も多く展示されています。
パラティーナ美術館の他の必見作品や、残りの4つの博物館、美術館「君主の居住区」、「近代美術館」、「衣装・ファッション博物館」、「大公の宝物庫(旧銀器博物館)」については記事の後半で詳しく解説します。
(3)ボーボリ庭園の見どころハイライト
ボーボリ庭園は、ピッティ宮殿に付属して造成された、4万5千平方メートルの巨大な広さを持つ庭園です。コジモ1世がニコロ・トリボロに指示して妻エレオノーラのために整備しました。
典型的なイタリア式庭園で、園内には噴水、緑地、ルネサンス期の彫刻があります。庭園内のいたるところに彫刻が置かれており、野外博物館のようになっています。
ピッティ宮殿、ボーボリ庭園とも世界遺産「フィレンツェ歴史地区」に登録されていますが、ボーボリ庭園は別の世界遺産「トスカーナ地方のメディチ家の邸宅群と庭園群」にも登録されています。
「メディチ家の邸宅群と庭園群」には、他にもメディチ家のカステッロ別荘やペトライア別荘など14ヶ所が登録されています。しかし、フィレンツェ中心部から少し離れているため、ボーボリ庭園が一番訪問しやすいです。
庭園内には、円形劇場や、ブオンタレンティの洞窟などの見どころがあります。
また、トスカーナ大公家の陶磁器を展示した「陶磁器博物館」があります。
庭園内の高台からは、ピッティ宮殿やフィレンツェの美しい町並みを展望できます。
(4)ピッティ宮殿・ボーボリ庭園の混みぐあい・おすすめ入場チケットは?
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園は比較的空いていて、長時間、入場待ちすることは少ないです。
公式サイトで事前予約も可能ですが、当日のチケット購入で大丈夫だと思います。
夏期(3-10月)の場合、入場チケットはピッティ宮殿が16€、ボーボリ庭園が10€で、合計26€と高めです。2ヶ所のセット入場券もありません。
ただし、ウフィツィ美術館を含む3ヶ所の共通チケット Intero Cumulativo 3 giorniがあります。
ウフィツィ美術館24€+26€=50€が38€に割引されるお得なチケットです。
その他の選択肢は、観光パス「フィレンツェ・カード」の購入です。ピッティ宮殿・ボーボリ庭園も対象施設なので無料で入場できます。
ただし、フィレンツェ・カードを購入すべきかは、ドゥオモ、ウフィツィ美術館、アカデミア美術館の3ヶ所の見学予定から決めたほうが良いです。
フィレンツェ・カードについて、こちらの記事で詳しく解説しています。参考にして、判断してください。
入場チケットの詳細は、次の項目で詳しく解説します。
(5)ピッティ宮殿の早朝入場割引
ピッティ宮殿へ安く入場するもう一つの方法が早朝入場割引です。朝8:59までにチケットを購入すると半額(夏期だと8€)になります。
チケット購入後、8:15~9:25の間に入場する必要があります。
ただし、フィレンツェ滞在が短い場合は、せっかく空いている早朝の時間帯をピッティ宮殿に使ってしまうのは、もったいない気がします。
私はドゥオモとウフィツィ美術館へ早朝に入場しました(早朝割引はありません)。
なお、ボーボリ庭園には早朝入場割引がないようです。
(5)ピッティ宮殿・ボーボリ庭園での写真撮影は?
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園は、写真撮影が可能です。
(6)見学時間の目安
ピッティ宮殿は見学箇所が多いので、どの美術館・博物館を見学するかで所要時間が変わります。
ハイライトの「パラティーナ美術館」と連続で見学する「君主の居住区」だけだと、合計1時間半~2時間くらいです。
残りの近代美術館、衣装・ファッション博物館、大公の宝物庫(旧銀器博物館)も見学する場合は、それぞれ20分~1時間ほどかかります。
ボーボリ庭園の見学時間は、30分~2時間くらいです。夏場は、熱中症必至なくらい暑いので、短めに見学を切り上げたほうが良さそうです。
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園の入場料・チケットの選び方
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園の入場料
チケット料金は、夏期(3-10月)と冬期(11-2月)で異なります。
■ チケット料金
ピッティ宮殿
※パラティーノ美術館、君主の居住区、近代美術館、衣装・ファッション博物館、大公の宝物庫へ入場可
夏期(3-10月):16€
冬期(11-2月):10€
ボーボリ庭園
※庭園、陶磁器博物館、バルディーニ庭園へ入場可
夏期(3-10月):10€
冬期(11-2月):6€
共通チケット(ウフィツィ美術館、ピッティ宮殿、ボーボリ庭園)
夏期(3-10月):38€
冬期(11-2月):18€
ポイントで述べたように、ピッティ宮殿には早朝入場割引があり、朝8:59までにチケットを購入し、9:25までに入場すれば、夏期・冬期とも半額になります。
ウフィツィ美術館との共通チケットは、3ヶ所見学する場合に、お得なチケットです。
ウフィツィ美術館を時間指定で事前予約することができます。ただし、ウフィツィ美術館へ最初に入場する必要があります。
共通チケットの購入方法、ウフィツィ美術館の事前予約については、こちらの記事をご覧ください。
フィレンツェ・カードの利用
フィレンツェ・カードを利用すると、ピッティ宮殿、ボーボリ庭園とも無料で入場できます。
また、窓口でチケットを引き換える際に、専用列を利用できます。
ただし、上記で説明したように、フィレンツェ・カードを購入すべきかは、ドゥオモ、ウフィツィ美術館、アカデミア美術館の3ヶ所の見学予定で決めたほうが良いです。
安くチケットを予約できる日本語サイトは?
ピッティ宮殿、ボーボリ庭園のチケットを日本語で安く予約できるサイトを調べてみましたが、ピッティ宮殿は、ガイドツアーの付きの高額なチケットしかありませんでした。
以下は、ボーボリ庭園のチケットの調査結果です。公式サイトで予約する場合、手数料として3€プラスされます。
調査結果:ガッカリするくらい手数料が高額なものしかありませんでした。
公式サイトも各3€の手数料がかかるので、現地チケット窓口での購入が良いと思います。
ピッティ宮殿の営業時間・休館日
開館時間
・火曜-日曜:08:15 – 18:50
※最終入場:チケット購入は18:05まで
新型コロナ対策期間
・火曜-日曜:08:30 – 13:30
※最終入場:チケット購入は1時間前まで
休館日
・毎週月曜日
・1月1日、12月25日
ボーボリ庭園の営業時間・休館日
開館時間
・11月~2月: 08:15 – 16:30
・3月: 08:15 – 17:30
※サマータイム開始後 18:00
・4、5、9、10月: 08:15 – 18:30
・6~8月: 08:15 – 18:50
・10月:08:15 – 17:30 ※サマータイム終了後
※最終入場:閉館1時間
新型コロナ対策期間
・11月~2月: 08:15 – 16:30
・3月: 08:15 – 17:30
・4、5、9、10月: 08:15 – 18:15
・6~8月: 08:15 – 18:30
・10月:08:15 – 17:30 ※サマータイム終了後
※最終入場:閉館1時間
休館日
・第一と最終の月曜日
・1月1日、12月25日
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園へのアクセス
ピッティ宮殿は、アルノ川の南岸に位置します。
他の観光スポットから少し外れた場所にありますが、シニョーリア広場から約10分の徒歩圏内です。
ヴェッキオ橋を渡ってまっすぐ5分弱歩くと、左側に巨大なピッティ宮殿があらわれます。
イタリア鉄道のサンタ・マリア・ノヴェッラ(SMN)駅から直接歩いた場合は、徒歩20分くらいです。
ピッティ宮殿・ボーボリ庭園の入場方法・当日チケットの購入
宮殿の中心に入場口がありますが、まずは前方にあるチケット窓口でチケットを購入します。
上で紹介したように、ピッティ宮殿のチケット(パラティーナ美術館、近代美術館など宮殿内の5つの美術館に入館可)と、ボーボリ庭園のチケット(庭園と陶磁器博物館に入場可)に別れています。2ヶ所のセットチケットはないので両方購入してください。ウフィツィ美術館を含む3ヶ所共通券は上記の通りウフィツィ美術館での購入が必要です。
チケットを購入したら、宮殿中央に戻って入場します。
フィレンツェ・カードを利用する場合は、入場口でカードを提示すれば入場できます。入場後、中庭の左手奥にあるブックショップでチケットを発行してもらえます。
ピッティ宮殿の見学
まず最初にピッティ宮殿内にあるパラティーナ美術館、君主の居住区、近代美術館などを見学します。
ピッティ宮殿のマップ
宮殿内入場すると中庭へ出ます。中庭の右手前に、美術館へ上がる階段があります。パラティーナ美術館は2階(イタリアで言う1階)にあります。
ピッティ宮殿の2階のマップです。2階には、パラティーナ美術館、君主の居住区があります。
階段を上がると、パラティーナ美術館の見学ルートのスタート地点に出ます。そのまま展示室番号の通りに見て行きます。
上記のマップの部屋番号は、今後変わる可能性があります(番号が変わっても見学の大まかなコースは変わらないと思います)。
宮殿の部屋を利用しているパラティーナ美術館では、展示室入口には番号でなく、部屋の名前が書いてあります。例えば、ラファエロの作品が多く展示されている展示室28は、「サトゥルヌスの間」(Sala di Saturno)です。
展示室内には、部屋の名称、概要、場所が書かれているプレートがあります。これを参考にすると現在位置把握に便利だと思います。また、展示されている絵画の名称、作者などが書かれたハンドアウトがおいてあります。普通の美術館と違い、絵画のそばに説明のプレートがありません(額に書いてあることが多いですが)。
パラティーナ美術館: Galleria Palatina
パラティーナ美術館では、このように壁の上から下まで所狭しと絵画が飾られています。目当ての作品を探すのが、ちょっと大変です。ただし、人気作品は基本的に下の方に展示されているので、見つけやすいと思います。
展示室2「彫刻のギャラリー」は中庭に面していて、ボーボリ庭園がよく見えるので、彫刻だけでなく景色もチェックしてみてください。
ガイドブックなどにもよく掲載される、こんな写真を撮影できます(ガラスの反射がやっかいですが)。
それでは、パラティーナ美術館の必見作品を順に紹介します。最初の方の展示室は、見どころとなる作品が少ないです。
フィリッポ・リッピ『聖母子聖アンナの生涯』(1452-1453) :Sala di Prometeo(17)
リッピは初期ルネサンス時代のフィレンツェ派の巨匠です。ボッティチェリの師匠として有名です。
幼子のキリストを膝に座らせている聖母子像の伝統的な構図の後ろには、マリアの母親である聖アンナや父親のヨアキムが描かれています。
サンドロ・ボッティチェッリ『若い女の肖像』(1485) :Sala di Prometeo(17)
ボッティチェッリは「ヴィーナスの誕生」と「プリマヴェーラ」で有名なルネサンス期のフィレンツェ派を代表する画家です。
「ヴィーナスの誕生」と同じ時代に描かれた絵画で、『シモネッタの肖像』と呼ばれてきましたが、モデルは特定されていません。
ラファエロ・サンティ『布貼り窓の聖母子』(1513-1514) :Sala de Ulisse(22)
パラティーナ美術館の主人公とでも言うべきラファエロの作品です。
銀行家であったアルトビティ家の依頼で描かれました。アルトビティ家はラファエロ、ミケランジェロ、ヴァザーリなどルネサンスの巨匠のパトロンでした。
後半の部屋には、たくさんのラファエロ作品が展示されています。
カラヴァッジオ『眠るキュービッド』(1608-1609) :Sala dell’Educazione di Giove(24)
カラヴァッジョは、バロック期の巨匠です。
暗い背景に、明るく浮き上がる主体にカラヴァッジョの特徴がよくあらわれています。17世紀後半にメディチ家が購入した絵画です。
ラファエロ・サンティ『身重の女の肖像』(1505-1506) :Sala dell’Iliade(27)
妊婦がお腹に手をおいている様子を描いています。ルネサンス期は、妊婦の肖像画を書くことはあまりありませんでした。
ラファエロ・サンティ『トマソ・インギラーミの肖像』(1510-11) :Sala di Saturno(28)
友人のトマソ・インギラーミを描いた肖像画です。インギラーミは斜視でした。2枚制作され、もう一枚は、ボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館に所蔵されています。
ラファエロ・サンティ『大公の聖母』(1506-1507) :Sala di Saturno(28)
トスカーナ大公フェルディナンド3世が所有していたため『大公の聖母』と呼ばれています。
元の絵には、背景が描かれていました。17~18世紀のあいだに、劣化した背景を隠すため、黒く塗りつぶされてしまいました。人物の輪郭も塗りつぶされたため、できの悪い加筆がなされています。
ラファエロ・サンティ『小椅子の聖母』(1513-1514) :Sala di Saturno(28)
ラファエロがキャリア後期に描いた聖母子像です。後ろから幼い洗礼者ヨハネがキリストを覗き込んでいます。可愛らしく描かれた聖母マリアが人気の作品です。
ラファエロ・サンティ『ベルナルド・ドヴィーツィ枢機卿の肖像』(1516) :Sala di Saturno(28)
ベルナルド・ドヴィーツィは、学者でもある外交官でした。教皇レオ10世の友人でもありました。
この絵画はナポレオン軍に接収され、一時パリに送られましたが、1815年にパラティーノ美術館に戻ってきました。
ラファエロ・サンティ『エゼキエルの幻視』(1518) :Sala di Saturno(28)
旧約聖書に登場する預言者エゼキエルを描いています。
ペルジーノ『キリストの哀悼』(1495) :Sala di Saturno(28)
「ペルージャ人」を意味するペルジーノは、ルネサンス期のウンブリア派の画家です。
この絵は、ペルジーノの絶頂期にフィレンツェのサンタキアラ修道院からの依頼で描かれました。
ラファエロ・サンティ『ヴェールを被る婦人の肖像』(1512 – 1515) :Sala di Giove(29)
ラファエロが愛人のラ・フォルナリーナを描いた肖像画です。ラファエロは、他にも何枚か彼女をモデルにした絵画を残しています。
ピーテル・パウル・ルーベンス『4人の哲学者』(1606 – 1611) :Sala di Marte(30)
ルーベンスは、フランドル・バロックを代表する画家です。
ルーベンス自身、兄のフィリップ・ルーベンス、ユストゥス・リプシウス、ヤン・ファン・デン・ヴァワーの4人を描いています。
ピーテル・パウル・ルーベンス『戦争の惨禍』(1637-1638) :Sala di Marte(30)
ヨーロッパで続いた戦争を嘆いて描かれた絵画です。赤い衣をまとった戦いの神マルスがヴィーナスの静止を振り切ろうとしています。
アンソニー・ヴァン・ダイク『グイド・ベンティヴォーリオ枢機卿の肖像』(1625) :Sala di Marte(30)
ヴァン・ダイクは、フランドル(現オランダ)出身のバロック期を代表する画家です。ルーベンスに師事しました。
モデルのグイド・ベンティヴォーリオ枢機卿は、ボローニャ出身の枢機卿です。ヴァン・ダイクや音楽家などのパトロンになっていました。
ティツィアーノ『悔悛するマグダラのマリア』(1531-1535) :Apollo Room(31)
ティツィアーノは、盛期ルネサンスのヴェネツィア派を代表する画家です。
キリストの死後、洞窟で苦しい修行をし聖女になったマグダラのマリアです。理想の肉体美が描かれています。左下には、マグダラのマリアの象徴である香油の瓶が置かれています。
ティツィアーノ『ラ・ベッラ』(1514) :Sala di Venere(32)
『ラ・ベッラ』(美しい女性)と呼ばれている、この絵画のモデルについて長い間、議論がなされて来ましたが、現在も完全には特定されていません。
ティツィアーノ『ユリウス2世の肖像画』(1545) :Sala di Venere(32)
多くのルネサンスの巨匠のパトロンになったことで有名なユリウス2世の肖像画です。
ティツィアーノがラファエロの『ユリウス2世の肖像画』を模写した作品です。ラファエロが描いたオリジナルの肖像画はロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。
以上、パラティーナ美術館で見逃せない作品の紹介でした。順路通り進むと、続いて「君主の居住区」の見学になります。
君主の居住区: Appartamenti Imperiali e Reali
メディチ家、ハプスブルク=ロートリンゲン家、サヴォイア家と続く歴代の君主たちがプライベートエリアとして利用していた14の部屋を見学できます。
君主が入れ替わることに、それぞれの好みに応じて改装されたため、メディチ風、ロレーヌ風、サヴォイア風が混じり合っています。
緑の間
壁紙、カーテン、家具が緑でできています。当初は警備室として利用されましたが、後の改装で最初の応接室になりました。
王冠の間
謁見のために利用された部屋で天蓋の下に王座が置かれています。現在の装飾は、ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世時代のものが、ほぼそのまま残っています。
礼拝堂
メディチ家時代に寝室として作られましたが、その後、ロレーヌ家時代に礼拝堂に作り変えられました。
楕円のキャビネット
楕円形の珍しいこの部屋は、建築家イグナシオ・ペレグリニによって設計されました。大公夫人のプライベートサロンとして利用されました。
近代美術館: Galleria d’Arte Moderna
階段で3階(イタリアの2階)へあがると近代美術館があります。
ハプスブルク=ロートリンゲン家が居住していた部屋に、18世紀終わりから20世紀までの美術作品が展示されています。
ジョヴァンニ・ファットーリ、シルヴェストロ・レーガ、テレマコ・シニョリーニなどマッキア派の作品が充実しています。
ジョヴァンニ・ファットーリ『29歳の自画像』(1854)
ジョヴァンニ・ファットーリ『3月の風景』(1880)
シルヴェストロ・レーガ『ストーネロの歌』(1868)
衣装・ファッション博物館: Museo della Moda e del Costume
衣装・ファッション博物館は、16世紀から現在に至る衣装のコレクションが展示されています。
宮殿の南翼にあるメリディアーナ小邸宅にあります。近代美術館の逆サイドに位置します。
舞台衣装を中心に展示されていますが、宮殿内で実際に着用されていた歴史的な衣装も展示されています。
こちらは、コジモ1世が埋葬されたときの衣装です。発見時は、ボロボロの布でしたが、丹念に修復されて現在の姿になりました。
多くの部屋には、現代のファッションが展示されていました。ファッションに興味のある方は、ぜひ見学されると良いと思います。
大公の宝物庫(旧銀器博物館): Tesoro dei Granduchi
以前は銀器博物館という名称でしたが、現在は、大公の宝物庫(Tesoro dei Granduchi/Treasury of the Grand Dukes)に変わっています。
宮殿の地上階と中二階にあるメディチ家の夏の居住区だった部屋で展示されています。
カメオ、宝石、銀器など、メディチ家とロレーヌ家の豊富なコレクションが展示されています。
中でも金で装飾されたラピスラズリの瓶は必見です。以前は、ウフィツィ美術館のトリブーナに展示されていました。ボーボリ庭園の名所「ブオンタレンティの洞窟」を作ったベルナルド・ブオンタレンティのデザインに基づき制作されています。
私が訪問したときのチケットのデザインはこのラピスラズリの瓶でした。
以上で、ピッティ宮殿の5つの美術館・博物館の見学は終了です。
ボーボリ庭園の見学
続いて、ボーボリ庭園の見学について解説します。
ボーボリ庭園への入場
ピッティ宮殿を見学後、ボーボリ庭園へ入場するには、さきほど入場した宮殿の中庭へ戻ります。中庭の右奥にボーボリ庭園への入場口があります。
ボーボリ庭園のマップ
1つ目の軸には、ピッティ宮殿から陶磁器博物館までが並んでいます(上のマップで言うと上下の軸)。2つ目の軸がネプチューンの噴水と小島を結ぶ軸です(左右の軸)。
2つ目の軸のほうが距離が長く、見どころも少ないので、短い時間で回る場合は、1つ目の軸を中心にまわるのが良いでしょう。左下のブオンタレンティの洞窟を見逃さないように注意してください。
ボーボリ庭園の見どころ
円形劇場
庭園に入場すると、目の前に周囲が石のスタンドで囲まれた円形劇場が広がります。メディチ家時代は、この劇場で演劇が公演されました。ロレーヌ家時代に一度、普通のルネサンス式庭園に改装されますが、18世紀なかば、現在の形に戻されました。
中央には、エジプトのオベリスクが立っています。これは、ローマにあるヴィラ・メディチから移設されたものです。
北東には、ドゥオモのクーポラやジョットの鐘楼を見ることができます。
ネプチューンの噴水
坂を上るとネプチューンの噴水があります。噴水の背後にも階段があるので、もう少し上ります。
振り返るとボーボリ庭園の豊かな緑の奥にピッティ宮殿、さらに奥にはフィレンツェの町並みが広がります。
陶磁器博物館
上りきると正面に、ピエトロ・タッカ作の豊穣の像があります。トスカーナ大公フランチェスコ1世の妻で、オーストリアのハプスブルグ家から来たジョヴァンナ王妃に捧げられた像です。
陶磁器博物館へ行くには、像の右奥の道を進み、階段を上ります。
階段を上がると「サルの噴水」がある騎士の庭園に着きます。噴水の台座にサルの像があります。
陶磁器博物館には、ナポリのカポディモンテ、フィレンツェ近郊のジノリ、ドイツのマイセンなどの陶磁器コレクションが展示されています。
展示物は、トスカーナ大公への外国からの贈り物や、ロレーヌ家が集めたものが元になっています。
小島(イソロット)
庭園の西側には、池に囲まれた小島(イソロット)があります。少し離れていて往復で20分弱かかるので、時間がない方はスキップしても良いと思います。
ネプチューンの噴水にある通路を西側へ進みます。途中、糸杉に囲まれた通りを7、8分歩きます。
突き当りに池に囲まれた小島が見えます。島に渡る通路は門で塞がれていますが、中央にジャンボローニャ派の彫刻で飾られた海の噴水を周囲から見ることができます。
ブオンタレンティの洞窟
庭園の北東の端に、奇妙な外観をしたブンタレンティの洞窟があります。ヴァザーリが建設を開始し、ベルナルド・ブオンタレンティが完成させました。
内部は鍾乳洞のようになっていて多くの彫刻が飾られています。現在は、アカデミア美術館にあるミケランジェロの4体の奴隷の彫刻は、もともとブオンタレンティの洞窟に飾られていました。
右側に見えるのは、ヴァザーリの回廊です。
以上、ボーボリ庭園の見どころを紹介しました。
参考)ピッティ宮殿・ボーボリ庭園の公式サイト
以上、ピッティ宮殿のパラティーナ美術館や、世界遺産にダブルで登録されるボーボリ庭園の入場チケット、見どころ、入場方法などを詳しくご紹介しました。